欧州ツーリング記

'02.07.06〜15

<序>

正直に言うと、今年はアフリカに行こうと下調べを始めていた。ところが、4月頃に、輪嘶舎(りんせい
しゃ)のHP (http://www1.odn.ne.jp/~ccj95360/rinseisha.htm)を見かけたのを機に、一転して欧州ツ
ーリングへと目が向いてしまった。これまでの欧州旅行と昨年のオランダ滞在において、4輪車は
多々使うことはあったが、2輪車で走る機会がなく、現地のライダーを見るにつけ憧れが募るばかり
だった。やはり一度は走っておきたい、この思いから、アフリカから欧州ツーリングへと変更し準備を
すすめることとなった。



<7月 6日>

いよいよ待ちに待った出発。前日までに詰め込んだ荷物と、ヘルメットを持って7時過ぎに家を出た。
関空マレーシア航空B777-200までは慣れたものだが、いつもは持たないヘルメットが何となく嬉しいやら照れくさいやら。
 関空でチェックインと旅行保険の手続きを済ませて、12時発ク
アラルンプール行きのマレーシア航空に搭乗し、定刻通りに日本
を離陸。
 クアラルンプールまでは約6時間のフライト。定刻通りに到着し
たが、ボードで確認してみると、乗り継ぎ便出発が1時間遅れの
予定。ただでさえ約5時間の待ち時間があると言うのに、その上
さらに1時間とは。仕方ないので、航空会社のラウンジで一休
み。インターネットが出来るPCがあるのだが、日本語が使えない
ので、仕方なくデタラメの英語で、いつもの掲示板に書き込みな
がら暇つぶし。それでも6時間近くも退屈なのは、本当に辛い。
搭乗開始されるとすぐさま機内に乗り込んでしまったが、これか
ら12時間も、また退屈なフライトが始まると思うと辛いので、何とか寝るように努める。クアラルンプー
ルを出たのは、日付も変わった25時だった。



<7月 7日>

機内では、割とゆっくり眠れ、あまり苦痛を感じる間もなく、ほぼ定刻の7時過ぎにフランクフルトに着
陸。さあ、いよいよヨーロッパ上陸。
今日、明日はレンタカーで、お気に入りのニュルブルクリンク走行も入れながら、近郊の小さな街を
訪ねる予定。予約していたHertzレンタカーにて手続きを行うが、「車はヤリス(日本名ヴィッツ)だよ」
って言われ、少々がっかり。せっかくドイツに来たんだから、ドイツ車貸して欲しいのに、と思いつつ
言われた駐車場には、ちゃんとヤリスが停まってた。で、車のトランクにスーツケースを入れようとす
ると・・・。完全に容量不足で入らないことが判明。治安面が心配だけど、仕方なくリヤシートを倒し
て、スーツケースを押し込んで、出発。目指すはニュルブルクリンク!
コースマップ 走行券 ニュルブルクリンク入り口
ニュルブルクリンク入り口
 左はコースマップと走行券
10:30頃にニュル到着。今日は朝から夜まで一般開放日なのは、HPで下調べ済みだったので、迷う
ことなく北コースの出入り口へ。やはり、地元の車好き、バイク好きで賑わっている。周りに比べる
と、ヤリスでは明らかにアンダーパワーだし、乗り手の腕も雲泥の差があるけど、臆することなく走行
券を買い、いざ出陣。車体の軽さは助かるが、明らかにトルクが不足してて、上りではまったく加速し
てくれない。周囲の車、バイクに抜かれまくられながら、約20kmの1Lap走行終了。
はぁー、疲れたけど本当に楽しかった。

ライン川の渡し船ニュルを後にし、モーゼル川沿いに東進。コブレンツでライン川と
合流すると、今度はライン川沿いに南下する。流すようにドライブ
するには、もってこいのコース。小さな街と点在する古城を縫いな
がらのドライブ。尾道を彷彿とさせる、小さなフェリーでの「渡し」も
風情が感じられる。

リューデスハイムから再びアウトバーンに入り、そのまま南下。
昼食は途中のSAで軽めに済ませる。アウトバーンのSAも良く
整備されており、給油、軽食に便利である。
やはり丘陵地帯を駆け抜けて、一路ミルテンブルクへ。しかし、
ゆっくりと町並み散策を楽しもうと思ったが、予想外の渋滞に不
安になる。途中の街でも幾つか見かけたのだが、ちょうど、お祭りが開催されているらしい。
ヨーロッパの短い夏を楽しもうと、この時期は各所でお祭りが開催されているようで、移動遊園地や
出店は、ビールとワインを楽しむ人で溢れている。ミルテンブルクを次の日に諦めて、お隣のミッヒェ
ルシュタットで宿探しを目論むも、市街地は一方通行が多く、少々車では不便なので、さらにお隣
の、本当に小さな街で宿を探す。
メインの通りより一本奥の静かな通りに宿を決めて、少し街中を散策後ピザで夕食。
ホテル 街並み
もう8時を回ってるのに、まだまだ明るく、ヨーロッパの夏を実感する。そして、久しぶりに体を横に出
来る嬉しさと少々疲れを感じることから、早めの就寝。

<本日のデータ>
 走行距離:565km(By car)
 ホテル:EU40 ニュル走行費:EU12 食費:約EU12 地図:EU11.5



<7月 8日>

時差ボケを感じることなく、6時過ぎに起床、体調も天候も問題なし。朝食時には同じ宿に泊ってい
た人達とワールドカップの話をしながら。楽しいけど、自分の語学力のなさを思い知らされる瞬間、も
っとがんばらないとね。
8:30頃に宿を出て、昨日見損ねたミルテンブルクへ。
マインの真珠と呼ばれ、日本人には知られていないが、ドイツ人には人気の街並みらしい。良かっ
た、今日は祭りの余韻もなさそう。駐車場に車を停め、さあ行こうと思ってる所に何か漏れるような
音。見てみると自分のヤリスのタイヤがぺちゃんこになってる! あまり時間もなかったので、さっさと
タイヤ交換して、残り少ない時間で、少しだけ散策を楽しむ。派手ではなく、いまだに人々が生活し
ている中世の街並みは、美しくかつリアリティに満ちている。
マインの真珠と呼ばれるミルテンブルクの美しい街並み
パンクしたヤリスのタイヤはテンパータイヤに換装
ゆっくりとしたいところだが、今日の午後はチューリッヒへの移動があるので、テンパータイヤでアウ
トバーンに乗り、一路フランクフルトへ。さすがに90km/h程度の速度での巡航は少々気を使うもの
の、トラックやバスの流れと同調して走らせる。
フランクフルトで車を返し、チェックイン後空港で昼食。フランクフルト空港のマクドナルドは、見晴らし
が良く、離着陸を眺めながら食事できるのでお勧めできる。
チューリッヒへは、スイス航空のプロペラ機で。実質45分程度のフライトながら、軽食も果物も配られ
るしで、サービスは満点だ。本当に、あっという間にチューリッヒに到着。空港税関でヘルメットを持っ
てることが分かると、税関職員は「おれはSUZUKIの1300に乗ってるぜ」と声をかけてくる。やはりヘ
ルメットを持った旅行者は珍しいらしい。

今回のレンタルバイク店が迎えに来てくれるというので、到着ロビーで探してみるが、それらしい人
は居ない。30分ほど待つがいっこうに現れないので、店にTELしてみると、「明日じゃなかったっ
け? 今空港かい? すぐに迎えに行くよ」と店主のフィルストさん。のん気だなあ、さすがヨーロッパ、
と感心しながら待つこと20分、フィルストさんが現れた。非常に親しみやすい人柄で、ホテルまで送
ってもらう間、ずっと話を楽しむ。

ホテルにチェックイン後、チューリッヒ市街地散策に。さすが大都市、人並みと繁華街に少々戸惑っ
てしまう。やはり小さな街が、僕には合ってるのかもしれない。今回のホテルは、市街地からバスで
20分くらいの郊外にあるのだが、市街中心のホテルでは、チェックインする日本人ツアーの姿も。四
ツ星クラスのようで、やはりツアーでは、高級ホテルを利用しているようだ。夕食を済ませ、ホテルに
戻って、明日からのツーリングに備えて荷物の下準備をする。明日からいよいよツーリング開始、期
待を胸に就寝する。

<本日のデータ>
 走行距離:271km(By car) レンタカー:EU145(保険等含)
 ホテル:SF110 ガソリン代:EU36 食費:EU5+SF12



<7月 9日>

ラインの滝ヨーロッパのほとんどのホテル、宿は朝食込みなのがありがたい。オレン
ジジュースに始まり、数種類のパン、ハム、チーズがメイン、そして各種シ
リアルとミルク。果物やヨーグルトも用意されているところが多く、朝からし
っかり栄養補給でき、しかも美味しいのだから言うことない。コーヒーが美
味しいのも好きな理由だ。
ZR-7ライディング用に着替えて、皮パンツを
履いたままチェックアウト、ホテルの前
のバイク店へ向かう。店ではフィルスト
さんと整備万端のZR-7が待ち構えてい
た。簡単な手続きを終え、ツーリング用
の荷物を積み込み、スーツケースを店
に預けて、いざ出発。
最初に目指したのは、ラインの滝。落差
のある滝を見慣れた目には新鮮で、そ
の圧倒的水量が流れ落ちる様は圧巻である。昔から物流に寄与
してきたライン川も、ここだけは避けて通らねばならない。
ラインの滝からは、今回のメインの目的地、アルプスの峠超えのために、サンモリッツを目指す。高
速道路はドイツ同様快適だが、慣れないノンカウルのために、思ったほどペースが上がらず130km/
h前後で、周囲の車の流れに合わせて巡航する。途中、ハイジの里として知られるマイエンフェルト
のS.A.で昼食をとり、クールで高速を下りる。ここからが本番、山岳道路の様相を呈してくる。それに
しても、やはり涼しく皮パンツでもまったく不快感を感じないどころか、フィット感と安全性、耐寒性か
らも、最も適したスタイルであることを実感する。
国道(以後は便宜上、国名で表す事にする)CH(スイ
ス)3を南下。氷河特急の発着地としても有名な
山岳リゾート地サンモリッツを目指す。この道
が、なかなかどうして、本格的なワインディング
で、多くのスキーリゾートの街を繋ぐ快走路が、
延々70km以上続く。
当然、市街部も通れば、トラックに行く手を阻ま
れることもあるが、ドイツ同様にマナーが確立
されており、まったくストレスを感じることはな
い。自分のペースで安全に走れば良いだけで
ある。サンモリッツからCH29でさらに南下、イタ
リアへと国境を越える。ここでは、大陸内の国
境越えで初めてパスポートと車検証の提示が
求められた。問題もなく、しかもパスポートに印
までもらって、少し上機嫌でイタリア入り。
しかし、イタリア入りして驚いたのは、ライダー、ドライバーのマナーが変わった事。ドイツ、スイスで
は「マナーは守らなければならない」という雰囲気さえ感じられたのが、イタリアでは、二輪、四輪問
わず、少々強引とも思える追い越しをする者も目に付く。それを咎めようとする雰囲気が感じられな
い。もちろん、多数は流れに従って走行しているが、一部には「抜かずにいられない」人々が存在す
るという、いかにもラテンな走りに、少々驚かされたのである。


 ↑
 今日のペンション

 ←
 イタリアといえばジェラート
I38を、今度は北上、有名なステルビオ
峠を目指す。標高が上がるにつれ、気
温が下がっていくのが肌で感じられ、
タイトな区間が増えてくる。木々の間か
らは、氷河を湛えた岩山が見え隠れ
し、アルプスを実感する。道の荒れが
スイスよりは若干気になりだす頃に
は、明らかに森林限界を超えたよう
で、低木が目立ち、一気に見通しが良
くなる。コーナーのほとんどは180°タ
ーンになるが、多くはガードレールも、
センターラインもない。ペースを崩すこ
となく、集中力を維持しながら、ワイン
ディングを楽しむ。充実感で満腹にな
る頃に峠に到着、地元ライダーも多数
休憩していた。
やっぱりイタリアに来たのだからと峠
のカフェにて、カプチーノで一休み。イタ
リアは特にコーヒーが美味しい。この
時点で16時過ぎなので、峠を下りて宿
探しを始めることにする。しかし、ここからの下りが曲者で、来たルートより、さらにタイトで道も荒れ
たターンが続く。いったん対向車線(もちろんセンターラインなんて無いが)に振ってからでないと曲が
れないコーナーは、地元組に続いて同じラインをトレースすることを心がける。地元組の多くは、
ここをタンデムで抜けるのだから舌を巻く。こちらは、扱いやすいバイクであったことに胸を撫で下ろ
す、無理は禁物だ。
峠を下りI38をそのまま東へ進路を変える。周りはブドウなどの果物畑が広がり、各所で散水してい
る。小さな村ラースで国道を離れ、村の中へ。どんな小さな村でも、大抵は宿があるもので、小さな
村であればあるほど安くなる傾向がある。特に田舎の民宿では、部屋の広さと綺麗さは保障されて
いるようなもので、しかも見つけるのも容易であるから使わない手は無い。今日の宿は、EU33のペ
ンションに決定。バイクはシャッター付きの納屋に入れてもらえたので、盗難の心配もなし。近くのレ
ストランで、当然のようにピザで夕食の後、近くに見つけたので、デザートはジェラートを頂いて、今
日の食生活は、イタリア満喫。部屋でシャワーを浴び、ようやく暗くなった10時過ぎにベッドに入る。
初日にしてツーリングを満喫の一日だった。

<本日のデータ>
 走行距離:478km(By Motorcycle)
 ホテル:EU33 ガソリン代:SF20 食費:EU9+SF17



<7月 10日>

6時頃起床し、すぐにカーテンを開けて空を見る。良かった、今日も真っ青な空が広がっている。今日
は、今回のツーリングの主目的地、ドロミテ山塊周辺を目指す。朝食を頂いて、8:30頃に出発、I38を
東進する。今日からWeekday、生活感が漂う一般車が多くなる。それでも極端に流れが遅くなること
もなく、メラーノから自然にアウトストラーダに入る。やはりそれほどドイツやスイスと違いがないの
は、イタリアでも北の端だからだろうか。ボルツァーノまでの短い道のりを、アウトストラーダで走り、
再び峠へとバイクを進ませる。ボルツァーノは、わりと大きな町で、市街部で少し迷うが、ツーリング
集団の後ろについて行くことにする。この辺りを走ってるんだから、目的地も同じだろうからね。無事
I241に入ることが出来た。
I241で、一気に標高を上げて行き、常時1000mオーバーを走る。夏の涼風が何とも気持ち良い。I48
に入るあたりで給油を行う。日本でも最近は多くなってきたセルフ式のスタンドがほとんどで、自分で
給油後にレジで支払うのだが、このまま逃げちゃったらどうなのかな? といつも不穏当な事を考えて
しまう。もちろんちゃんと支払うし、同時にトイレを借りたり水を買ったりもする。特別に難しくもない給
油だが、一つ気をつけたのが、ガソリンの種類で、各国の言葉で書かれていてもさっぱり分からない
のである。しかし、国際規格であるオクタン価に注目して、「95」の数字が書いてあるノズルを使うこ
とにしていた。おそらく日本で言うレギュラー相当だと思うが、Go&Stopが少なく、巡航区間が長い
ことから、それほど神経質にならずともノッキング等は起こさなかった。
I48に入ると、景色は一変、まさに山塊というべき岩の塊のような山がそそり立っている。険しくしか
し美しいスイスアルプスとは異なった、人の介在を拒むような山塊と、麓に散見する美しい湖の対比
は、真っ青な空と相まって、何とも美しい。これまでの峠道よりは幾分ペースを落として、周囲の景
色を楽しみながら走ることに専念するが、あまりに雄大な風景に飲み込まれそうな感覚さえ味わう。
そのうち、ドロミテ観光のベースとして有名なコルティナダンベツィーノに到着、山岳観光地らしく、そ
こかしこにロッジ風ホテルが見られる。村内の通行に少し気を使いながらパスし、ミズリーナへ。小さ
いながらも美しい水を湛える小さな湖の湖畔のカフェで一休み。ここらで標高は1200mほどか? サ
ンドイッチとカプチーノで昼食を済ませる。
昼食後は後ろ髪を引かれながらドロミテを後にし、I49を東進しオーストリアへ国境超え。このボーダ
ーは、建物らしきはあるものの、まったく人が居る気配がないので、そのままパスする。ここまで大分
標高を落としてきたものの、A111ドロミテ街道に入って、また少し標高を上げる。しかし、ドロミテとは
言ってもこれまでとは景色が一変、険しい丘と言うべきか、なだらかな山と言うべきか、映画Sound
of Musicの世界を走る。コーナーの深さも稜線に沿った大きなRが続くので、自然とペースが上が
る。次はA100を北上、再び標高を落としてくると、日差しの強さが気になりだす。スーパーで一休み
するも、日向は体力を消耗するので、日陰でレッドブルを一気飲みする。やはりヨーロッパと言えど夏
を実感する。
これで驚愕のEU22!
A100北上後リエンツでA108へ
乗り換えるが、どんどん雲行き
が怪しくなってくるのが分か
る。
時刻は4:30、早めの宿探しと
しよう。国道を離れ村へと進む
と、さらに2kmほど先にいくつ
か宿があるらしいので、そこを
目指す。外観はちょっとしたロ
ッジ風、客もほとんど居ないよ
うなので訪ねてみると、料金は
EU22だと言う。驚きつつも部屋を見せてもらうと、これまでと引けをとらない大きさと設備なので、こ
こに決定。さっそく着替えていると、雨音が響いてきた。良かったと胸を撫で下ろす反面、ここは夕飯
の提供はなく、村までは雨の中を戻らなければならないので、非常用に用意していたパンと水で済
ませることにする。質素な食事だが、テラスでのんびり食べれば少しは雰囲気出るし。何もすること
もないので、今日は早めに寝ることにしよう。

<本日のデータ>
 走行距離:359km(By Motorcycle)
 ホテル:EU22 ガソリン代:EU13.5 食費:EU8



<7月 11日>

就寝が早かったせいか、目覚めるのも早く、6時頃には起床する。朝食までは1:30、身支度する時間
を考えても、1時間以上は時間が余る。しかも、今朝の空は、今にも泣き出しそうな重くのしかかる雲
一面。TVの天気予報を見ると、午前中は雨を覚悟しなければいけなさそうだが、午後からは回復し
てくるようだ。
朝食を済ませて、8:20頃に出発。祈るような気分で、合羽は着ないことにする。A108を北上し、少々
長いトンネルに入る。が、このトンネルは有料でEU8も取られるが、迂回ルートもないので渋々払う。
しかも、トンネルを抜ける直前に道路が急に黒くなるのに気付き気が滅入る。そう、トンネルの向こう
は雨だったのだ。トンネルを出た直後に雨宿りできそうな建物があったので、そこで合羽を着用。対
向から来るライダーも合羽を着てることから、覚悟を決める。とにかく安全第一なのだし、雨もまた良
い経験、と自分をなだめてみる。幸いにも雨粒は小さく、それほどの負担はない。しかも、自分でもこ
れでもか、と思うほどペースを落としているにもかかわらず、現地ライダーを抜きまくる。霧雨を浴び
ながら、A165を西に進むと、何やらまたまた怪しい建物が。そう、また料金所なのである。峠区間が
有料になっているらしく、EU4も取られる。先ほどと合せてEU12である、オーストリアの道路行政に疑
問が湧く。それでも、前進し、シュバッツより高速道路に乗るが、当然無料である。
S.A.で休憩し、カプチーノでほっと一息。この時点で、雨は上がり少しだ
が雲が切れていくのが分かる。祈るように合羽を脱ぎ、再び高速へとバ
イクを進める。高速道でオーストリアアルプス観光拠点のインスブルック
を超えて、テルフで高速を下りる。A189、314と少々道幅の狭い村々を
繋ぐ峠道を越えて、いよいよドイツに入る。
ゲートタウンのフュッセンは、ロマンチック街道の南の拠点、せっかく青
空が広がってきたので、白鳥城でも見ながらの昼食を目論んで、シュバ
ンガウへと向かう。
白鳥城ことノイシュバンシュタイン城の見
えるカフェで、ピザを注文。周りを見渡す
と、自分も含めてアジア系の人が目に付く
が、日本語が耳に入ってこない。どうも、
垢抜けた格好をしているのは韓国人、二
昔前のツアー客のような格好をしているの
は中国人らしい。特に中国人の勢いは凄
まじい物を感じる。やはり、今は飛ぶ鳥を
落とすほどの勢いがある中国の力を見せられた感じがする。
昼食を終え、付近を少し散歩した後は、D310から308へと向かう、ドイ
ツアルプス街道を進む。アルプスといっても、スイスや北イタリアの険し
さは全くなく、どこかのどかで牧歌的な雰囲気が色濃く残る快走路であ
る。丘の稜線に沿って延びる幾つもの
高速コーナーを現地ライダーと共に堪能できる。約2時間のノンストップ
の快走である。このまま行けば、間もなくボーデン湖畔の町リンダウに
出るが、早目の宿探しを開始する。というのも、ボーデン湖は、ドイツ、
オーストリア、スイス三国の国境を分けるのだが、スイス入りしてしまうと物価が跳ね上がることが予
想されるからだ。ドイツ内での宿を確保して、少々節約しようという事だ。だが、リンダウに近づくにつ
れ、ガストホフがありそうな、小さな村はなくなり、少々焦る。リンダウ市内の湖畔に行けばあるだろ
うが、リゾート系は高いことが考えられるので、何とかこの辺りで、と思っていると、市街に入る手前
でHotelの看板を発見。値段を聞くとEU39という。部屋は少々狭かったが、まあ、許せる範囲なの
で、今晩はここに決める。
夕飯は近くに良さそうな所も見当たらなかったので、スーパーでパンとジュースとお菓子を買って、ホ
テルの部屋で済ませる。夜は持ってきたMDでお気に入りのJ-popなどを聴いて楽しむ。地球の裏側
に居ながら、日本の曲を聴くのは、なかなか新鮮で、最近の旅行では少々ハマリ気味である。明日
は、いよいよツーリング最終日。今日の雨が半日で済んだことを良しとして就寝する。

<本日のデータ>
 走行距離:454km(By Motorcycle)
 ホテル:EU39 ガソリン代:EU27 食費:EU14 有料道路:EU12



<7月 12日>

いよいよツーリング最終日、天候も良好だ。早目の朝食を食べて、8時過ぎには出発する。リンダウ
の市街地を、ボーデン湖を回りこむようにパスし、スイス国境を越える。いよいよ、陸路最後の国境
越え、今回はノーチェックでスイス入り。湖岸を離れると、目指すは古き良き小村アッペンツェル、標
識が出ているので、道に迷うことなくバイクを進める。タイトな、でも優しいワインディングを駆け抜け
ると、丘の切れ目から急峻な頂が覗く。最後の日まで、飽きることなく続く景観とワインディング、まさ
にライダーにとっては天国である。

ほどなくしてアッペンツェルに到着し、駐車場に
バイクを停める。観光地でのバイクの扱いは、
日本に比べて圧倒的に良く、ほとんどの駐車
場でバイクを停めるスペースが確保されている
のがありがたい。でも、面倒ではあるが、ワイ
ヤーロックを怠らないようにしなければならな
い。治安面では、用心するに越したことはない
のだから、自衛あるのみ。
アッペンツェルは、直接民主政治と、美しく装飾
が施された建物で有名な村だが、あまり知名
度は高くないと思っていた。しかし、ここで日本
の某大手旅行社のツアー客に出会う。日本の
ツアーも捨てたものではないのかもしれない。
向こうにしても、こちらの姿が珍しいようで、レ
ンタルバイクで走っている事を告げると驚かれ
た。
オープンカフェで休憩の後は、時間調整をしな
がら、バイク返却のためにチューリッヒを目指
す。帰りのフライトを考えると、昼過ぎには店に
着きたいところだが、高速を使うほどの距離で
もないので、ツーリングの最後を締めくくるよう
にローカルワインディングを駆け抜ける。一部
にCH8を使うが、主にローカル道を走り、昼前
にヴィンタートゥーアに到着、チューリッヒは目前なので、国道沿いのカフェで昼食を取り、ガソリンも
補給。ここからは、チューリッヒ市街地を嫌って、高速道路を使い、13時30分頃いよいよチューリッヒ
の店に帰ってきた。昨日の雨で汚してしまったけど、一緒に快走してきたZR-7にも感謝、本当に頼
りになる相棒だった。
店に戻ると、玄関も裏口も閉まっている。どうやら、ヨーロッパでは良くある話だが、13時30分までは
昼休みのようだ。そろそろ開店かな、と思ってると、125ccのオフローダーがこちらに手を振りながら
入ってきた、がフィルスト氏ではなさそうなので、怪訝に思ってると、明らかに日本人だ。話をしてみ
ると、同時期に輪嘶舎でバイクレンタルを申し込んだMさんだった事が判明、日本から遠く離れた地
での顔合わせに、他人のような気がしない。どうやらMさんは、ミドルクラスのバイクを希望していた
が、あいにくZR-7は使用中で、ZZ-R1200しか残っていなかったので、僕と入れ替えでZR-7を使おう
と戻ってきたそうだ。少し申し訳ない気分になったが、ZR-7の快調さとこれまでのルートの話をし
て、フィルスト氏を待つ。が、14時を過ぎてもフィルスト氏は現れないので不審に思ったところ、玄関ド
アに小さく張り紙がしてあるのを見つける。ドイツ語で訳が分からないが、16という数字は見て取れ
る。まさか、16時まで戻らないのか? フライトの時刻もあって少し焦るが、こちらとしては打つ手がな
いので、Mさんと話をしながら待つことに。
Mさんは学生で、国内ではほとんど町乗りにしかバイクに乗っていないらしいが、興味を持ったらじっ
としていられずに、初ツーリングに欧州を選んだらしい。そう、いくらウンチクを言ったところで、実際
に経験した者にしか見えない景色、味わえない雰囲気が旅の醍醐味、困難を乗り越えてでも、来た
者、走った者が勝ちなのだということを、見せられた気がする。Mさんのツーリングの無事を祈り、余
ったフィルム等の日用品を渡しているとフィルスト氏がやって来
た。良かった、何とかフライトに間に合いそうだ。
店で返却手続きと着替えをし、ツーリンググッズをスーツケースに
しまうと、いよいよ欧州ツーリングも終わることを実感する。本当
に、快走の毎日と無事で終えられたことに、我ながら感動する。
フライトまでの時間もないことから、フィルスト氏に空港まで送って
もらうことになる。電車で行っていては、到底間に合わない。車中
で、ツーリ
ングのルートとバイクの完調さを話しているうちに空港到着、本
当にありがとう、そしてまたお会いしましょうと最後の握手を交わ
して別れる。走行距離1500kmのツーリングも、本当の意味で終
わりを告げた瞬間だと思う。
今日は、明日のフライトに備えて、チューリッヒからアムステルダムに移動し一泊する。だが、アムス
到着は20時なので、本当に移動と宿泊のみだ。空港までシャトルバスを運行するホテルを日本で予
約していたので、アムス着後も空港に直行して眠るだけだ。スーツケースを引きながら、ツーリング
の終わりを、今更ながら実感する。

<本日のデータ>
 走行距離:215km(By Motorcycle)
 ホテル:\10900(クーポン払) ガソリン代:SF16 食費:SF18+EU10



<7月 13日>

今日は移動日で、時差を考えると半日しかない。朝食後、シャトルバスで空港に行き、チェックインを
済ませる。もう、勝手知ったるスキポールなので、スーパーでお土産を買い、出国後は空港ラウンジ
でくつろぐ。定刻通り、12時にクアラルンプールに向けて離陸、ついにヨーロッパを離れる。海外旅行
慣れした今でも、この瞬間だけは、誰に言うわけでもなく「また来るから」と心の中でつぶやく。そう、
旅に終わりはない。
機内では、いつものように読書やMDを楽しみ、疲れれば寝たりを繰り返せば目的地に到着する。今
回のフライトは12時間、目覚めれば早朝なのだから、十分に疲れが取れるように、なるべく眠ること
に努める。



<7月 14日>

7時過ぎ、定刻通りクアラルンプールに着陸する。23時45分発の乗継便までは丸一日あるので、メイ
ンはクアラルンプール市街の観光とする。その前に、マレーシア航空が無料サービスとして、休憩で
きるリゾートホテルが用意されているので、そこで昼過ぎまで仮眠し、シャワーでさっぱりする。さあ、
いよいよクアラルンプールに出撃。
クアラルンプールは、熱帯雨林の中に切り開かれたマレーシアの首都。落ち着いた欧州とは正反対
の、アジア特有の喧騒で賑わう市街地だ。さすがに首都だけあって、地下鉄やバスも整備されてい
るし、モノレールも完成間近だ。まずは世界一の高さを誇るペトロナス・ツインタワーへ。商業ビルな
ので、内部には入れないが、下層は大型ショッピングセンターになっており、地元民と観光客で活気
に満ちている。店を見ていると、まったく外国に来た気がせず、日本製品が満ち溢れている。次にKL
タワーに登る。こちらは、展望台になっており、クアラルンプール市街を一望できるが、市街地は森
林に囲まれており、植生も熱帯であるのが分かる。それにしても、ここも中国人ツアー客が多い。や
はり、飛ぶ鳥を落とす勢いの中国は、今が旬なのだろう。
LOT10などの商業施設が並ぶ通りのスタバで一休み。蒸し暑いので、アイスモカが美味しい。ふと
立ち寄ったショッピングセンターは、これまでとは一味違った雰囲気で、店種は異なるものの、香港
の電脳街と同じムードを醸し出している。さらに奥に進むと、お約束のようにありました、海賊版ショ
ップ。日本人(主にアイドル系)歌手のCD、日本アニメ、ゲームソフト等の海賊版が多数で、その間で
携帯電話改造店(スケルトンボディに換装して発光ダイオードを仕込みまくる)、怪しげなPCパーツば
かり売る店、Evolution、Type-R等の車用エンブレム(真贋不明)やステッカーを売る店が所狭しと並
ぶ。モラルも秩序も無い、海賊版天国な様子は、まさにアジアの王道と言ったところだが、香港電脳
街と違うのは、エロ系がないこと。やはり、政治的または宗教的な影響が大きいのだろう。
空港へ向かう前に夕食を済ませることにするが、さすがに衛生面が気になり、屋台には入らずに、
中華系と思われる食堂に入る。迷わず、サテ(東南アジア風焼き鳥)とミーゴレン(東南アジア風焼き
そば)を注文。うーん、やっぱり美味しいね、食はアジアに限るかもしれない、次は本場の中華と行き
たいね。
20時を回ったので空港へ向かう。チェックインを済ませ、ラウンジに行こうかと思ったが、カフェのTV
でロッシが映し出されたので、そこでコーラを飲みつつMoto GPを観戦して時間潰し。免税店で、残
ったRM(リンギット=マレーシア通貨)をチョコレート類に換え、いよいよ最終帰国便へと搭乗する。定
刻通り離陸、目覚めれば日本のはずだ。

<本日のデータ>
 \5000=約RM160で、食費、交通費等すべて賄う
 詳細データ残していない



<7月 15日>

台風接近が心配されたが、予定通り関空に着陸、とりあえず無事帰国はできた。過ぎてしまえば、
あっという間だったが、大きなトラブルも無く帰って来た事にほっとする。家までは、やはり慣れた道
のり、何もかもが新鮮で刺激的だった旅も終わり、日常へ戻っていく事を実感するのも、この関空か
らの帰り道だ。この旅を、もう一度振り返りつつ、次の旅へと、また思いを馳せよう。目指せば行けな
い所なんて、この地球上には、ほとんど無いのだから。そして感動は、世界中のあちこちに存在して
いるのだから。





<最後に>

この旅をサポートしていただいた輪嘶舎の方々とフィルスト氏、そして、この旅で出会ったすべての
方々への感謝を込めて。



<旅のデータ>

航空券:マレーシア航空利用 欧州往復 IT料金 約\10万 + スイス航空 欧州内2フライト\28000
レンタルバイク:スイス Furst Moto(カワサキ販売店) にて SF180/日 x 4日−>SF700
レンタカー:Hertz コンパクトクラス 2日 EU145 (保険代等含)
走行距離&燃費:1506km&66.6L=22.6km/L(Motorcycle)
宿泊費:EU134+SF110+\10900=約\35000
滞在費等:EU170+SF83=約\26000